本物であることは重要

「美味礼讃」という海老沢泰久さんが書かれた本を読みました。

辻静雄氏が辻調理師専門学校のある辻調グループを築き上げていく様を描いた小説?
何が事実で何がフィクションなのかよく分かりませんが、読みだしたら次々と先が気になる展開ですぐに読み終わりました。

辻静雄氏が学校を成功させて行く過程がなかなかのロックな感じもあり、学校設立・成功の背景を知ると、事実は小説より奇なりと感じてしまえるような雰囲気があるものでした。
また、この本では、日本のフランス料理に対する遅れ方がいろいろと出てきます。今では想像できないように思うので、その社会の変化も楽しめました。

話の展開も面白いわけですが、辻氏の学校の成功として、私に理解できたものが2点あります。それについて読めたことは良いことでした。

一つは、生徒への関心を示すことです。生徒が休んだりすれば、親にその旨を伝えるなど、休んだこと以外にも両親に報告をこまめに入れる、というものです。

もう一つが、【 本物 】ということです。
辻氏が学校を始めた頃、フランス料理を学ぶわけですが、とにかく日本に本物のフランス料理が無い、ということに愕然とされていました。素材はもとより、そもそもの料理の仕方自体がおかしいというレベルです。そして、そうしたニセモノの蔓延が契機となって実際に本場の料理を体験し、そこで得たものを学校に戻すことで学校が成長していく、というよいスパイラルが出来上がっていきます。 その本物の追求は料理に留まらず、食器などにも展開していきます。
とにかく、お金に糸目を付けず本物を追求する様が多くの生徒を惹きつけ、さらには、日本全国の一流の料理人をも惹きつけていきます。

この本には金丸浩三郎という方が登場します。辻氏をライバル視している方で、さしずめ悪者役です。
この方も料理学校を経営し、生徒集めに苦労するわけですが、この方が実行した方法は新しい設備を導入するなど、重要ではありますが、料理学校の本筋ではないことでした。もちろん、本筋のことを行おうとはしたようですが、日本で本物のフランス料理が作れる人や、ましてやフランスから一流の料理人を呼ぶなんてことはできません。だからこその傍流の手を打つしかなかった、ということかも知れません。いずれにせよ、生徒は集まるものの、辻氏の学校には遠く及ばない結果でした。

私はブランディングを考える時にどういう物を目指すかは色々あろうかと思いますが、それに見合った実態が無いと成功しないと考えています。広告などで雰囲気をどこかの企業に似せたところで、そういう風になりたいんだな、と見てもらえるかも知れませんが、それは良くても見てもらえるだけで、企業に抱く認識までは変わらないと思っています。
辻氏が学校のブランディングを考えていたとは本には書かれていませんし、実際考えていなかったのではと思います。それでも学費を他校の何倍もに設定しても、校舎を次々と建てていかないといけないほど、生徒が集まり成功を収めていくのは、本物のフランス料理を学べる、という実態があり、それが全国の高校などに配られたパンフレットから伝わり、結果的に辻氏の学校が本物感を纏うことになり、成功したのではと感じました。

何事においても本物の追求の重要性を感じました。